ウェブ解析を頼まれたときに、いきなりGoogle Analyticsの画面を開いてしまう方(ウェブ担当者)に向けて、考えておきたいポイントを書いてみました。
ウェブ担当者の悩みは「どこを改善すべきかわからないこと」
ウェブ担当者として、より良いウェブサイトを作ろうとして、まず悩むことは「どこを改善したら良いかがわからない」ことではないでしょうか。
改善のヒントとなるものとして、ウェブアクセスの解析ツールがあります。これはウェブサイトを閲覧した人がどのような行動をしたかを調べることができるので、ウェブ担当者であれば使っている人も多いでしょう。
Google Analyticsを使っていればウェブの改善点がわかるのでは?
ウェブアクセスの解析ツールとして有名どころはGoogle Analyticsです。
無料で使用できるので、とりあえずウェブサイトに入れてある人も多いと思います。
「これがあればウェブ解析も簡単なはず! ここにヒントがあるはずだ!」ということで、Google Analyticsのレポートページを開くと様々な指標が踊っています。
この数字だらけのレポートページに戸惑ってしまうのではないでしょうか。
継続的な改善は必要だが、これさえやればOKなんてものはない
とにかく数値として上げておいた方が良さそうな数値や下げておいた方が良さそうな数値など、数値だけを見ていると、アレもコレも改善する必要があるように思えてしまいます。また、改善も「可能な限り上げる」「可能な限り下げる」施策を考え、継続的に取り組んでいくとすると、終わりがない改善をひたすら頑張ることになってしまいます。
「ウェブサイトはできたときがスタート。絶え間ない改善が大事なので、仕方がないのでは?」
そうですね。ウェブサイトを作っただけでは、あまり意味がありません。スタートラインに立っただけです。言われるように継続的な改善が必要なことも間違いありません。
しかし、人がやれることは限られています。企業ができることも限られています。有限の時間、有限の資金、有限の人材と有限のリソース(資源)を正しく配分することが求められます。
ということは、様々な目標に対して、ここだけ見れば良い指標があるのでは? そう思うかもしれませんが、そんな必殺のポイントとなるものは存在しません。
なぜでしょう?
書籍『繁盛するWebの秘訣「ウェブ解析入門」』(技術評論社発行・江尻俊章著)はそんな疑問にヒントを与えてくれる書籍です。
ただしこの書籍はGoogle Analyticsの機能を詳しく書いているわけではありません。
「ウェブを改善するということはどういうことなのか」を丁寧に書かれている書籍になります。
この書籍はウェブ解析士マスターの小杉さんがお薦めされていた書籍ですが、ウェブの改善について色々な視点を与えてくれた書籍です。私もお薦めします。
直帰率の改善は必ずやるべきことなのか?
例えば、検索エンジンやソーシャルメディア(TwitterやFacebookなど)からページを訪れて、そのページだけを閲覧して立ち去った割合は専門用語で「直帰率」といいます。
ウェブサイトを運営している人の感覚で言えば、すぐに帰ってもらわずに、他のページにもアクセスしてもらった方が良い、つまり直帰率は低い方が良いという発想になると思います。
しかし、書籍では「ウェブを改善する」ということは、直帰率を下げることではないと断言しています。
直帰率を下げることはあくまで手段であり、目的ではありません
『繁盛するWebの秘訣「ウェブ解析入門」』(技術評論社発行・江尻俊章著) P223「直帰率を確実に下げる方法」より
書籍の中の例では「ビンテージバイク」のサイトの直帰率が非常に高いことを挙げていました。
「直帰率が高い」という事象を、ただ単純に「ナビゲーションが悪い」「コンテンツ(ページの内容)が悪い」と考えると、誤った判断をしてしまうかもしれません(正しい場合ももちろんあるでしょう)。
紹介されているビンテージバイクのサイトは、入荷情報が書かれているページがあり、そこをビンテージバイクを購入したい方がチェックしているので「検索エンジンやブックマーク」→「入荷情報」→「欲しいバイクは入ってないわ…」→「立ち去り」と、すぐに帰ってしまうパターンが多いため直帰率が高くなっていたそうです。
この場合は直帰率を下げることを目的にしても意味がありません。
訪問者の目的は「欲しいバイクを買いたい」なので、行うべきことは直帰率の低下ではなく「欲しいバイクが入荷したときにタイムリーに情報を届ける」ことなのです。
つまり、どんな時でも直帰率を下げることが正しく、最優先に取り組むべきではないのです。目的に合致したときに直帰率が低下する施策を試みれば良いのです。
ウェブサイトの目的に立ち返って何を調べるかを考える
改善の対象となるウェブサイトは何のためにあるのでしょうか?
わかりやすい例を出すと、販売サイトだったら、売上を上げることです。
売上を上げるとひと言で言っても、通常は(一定期間内、例えば四半期などで)売上を何%上げるなどの目標があるはずです。
- 目標は何か?
- この目標を達成するためにすべき行動は何か?
- その施策はどの指標の数値が上下すれば達成されるのか?
これらは専門用語でKGI・KSF・KPIと呼ばれるものですが、このように具体的な施策に落とし込み、必要となる指標を特定しないと、Google Analyticsなどのアクセス解析ツールの指標は意味が無いのです。
アクセス解析ツールの指標が先にあるのではなく、目的が先にあって、そこから落とし込む。
つまり、ウェブ担当者はビジネスプロセス(ビジネスフロー)を理解する必要があります。
目標に対して、施策の落とし込み、それがどの程度の効果を求められているのかが分からなければ、指標の値の上下がどの程度必要なのか分からないので、調べる意味がありません。
もし、あなたがウェブの制作(企画・構築)には関わってなく、ウェブ解析だけ依頼されたとしたら、まずは依頼主に目標と施策で何をしているのかを確認しなければいけません。それを確認しないでGoogle Analyticsの画面を開いても、成果に繋がるウェブ解析はできないでしょう。
繋がりを意識する
「ウェブ解析だけ頼まれたのに、他の工程も調べないとダメなのか?」
その通りです。
現在、 私は印刷会社という製造業の会社に所属していますが、印刷物は企画・仕様・デザイン・編集・印刷用データ・製版・印刷・製本加工・梱包・出荷・納品まで、一連の流れの中に自分が関わっている分野を意識していなければいけません。
「良いデザインだけど、そういうものは(物理的に)印刷できない」では製造することができませんし、「印刷物は完璧だけど、納品時に印刷物が傷んでいた」では、印刷物を使うことができません。
成果物を作るためには、ビジネスプロセスをひとつのチェーンのように考えて、全体を見なければいけないのです。
書籍にも書かれていますが、ウェブ担当者だからといって、ウェブ・アプリだけに絞って改善の方法を見いだそうとすると、本来採るべき改善策・アイデアを無意識に除外してしまうことにもなりかねません。広い視野を持つように心掛けましょう。
まとめ
- あなたがウェブ解析を依頼されて、いきなりアクセス解析ツールの画面を開いていたら、閉じましょう。
- 解析の前提となる目標やビジネスプロセスを理解して、必要な指標を特定してからがスタートです。
- そして改善の提案はウェブに囚われすぎないように広い視野で。
それでは、よいウェブ解析を。
※ウェブサイトを構築する段階で、しっかり目標から適切な指標の落とし込みしておくべきという話は当然ですが、今回はウェブサイト構築時にそこまで考えていなかった場合のお話を書いてみました。